2025年5月4日日曜日

キムネクマバチ

キムネクマバチ(Xylocopa appendiculata circumvolans

ハチ目
ミツバチ科
クマバチ亜科
クマバチ属
キムネクマバチ

『彼らは、飛べると信じているから飛べるのだ』
(浪漫しかない.)

キムネクマバチは全身が黒く,胸部だけ黄色いふわふわした毛で覆われ,
体長は約2cm前後の大きめのミツバチ科の蜂.
羽音が大きく飛翔時にぶんぶんと低く響く音を出す.

性格は温厚で,人を襲うことは少なく,
オスは針が無く刺さないため安全.
メスは針を持つが,刺激しなければ攻撃しない.

受粉に重要な役割を果たし,
桜やツツジ,藤などの花で花粉や蜜を集めるが,
口吻が短いため,花の根本に穴を開け蜜を吸う「盗蜜」行動をよくとる.

オスは縄張り意識が高く,ホバリング(空中静止飛翔)をしながらメスを探す.

最近の危惧
クマバチは木材に巣穴を作る習性があり,
家の柱や梁などに巣を作ると建物の強度が弱まり,
倒壊の危険が出ることがある.
穴の深さは40cmに及ぶことも.
在来のクマバチは一部地域で減少傾向にあり,
外来種(例:タイワンタケクマバチ)が勢力拡大していることから,
生態系影響も懸念されている.

クマバチの飛行


豆知識
クマバチの黄色と黒の体色は敵から身を守る警戒色であること.
クマバチは単独行動を好み,集団で生活するミツバチと違い,
マイペースに動くため温厚である.
オスは針を持たずメスだけが刺すが,刺されても重症にはなりにくい.
(ただしアナフィラキシーには注意)
繁殖期には空中でホバリングしながらメスを探す姿が観察できる.

オスは春先に地上約2mほどの高さで空中静止(ホバリング)し,
縄張りに入るメスを待つ.
オスは縄張りを守るため,メス以外にも,
虫や人など近づいてくるものを威嚇するが,刺す能力は無い.

花の盗蜜行動
花蜜に口が届かない際は,
花の根本をかじって穴を開けて蜜を盗む「盗蜜」行動をとる.
特に細長い花(アベリアなど)ではこの行動がよく見られる.
クマバチが花の根本を開けることで,
他の生き物もその穴を利用して蜜を吸う「二次利用」が発生することも.

振動受粉(バズポーリネーション)
クマバチは翅の振動を利用し,花粉を落とす「振動受粉」技術を持つ.
これは大型の花粉媒介者であるメリットで,特定の植物には欠かせない存在.
特にフジの花は,クマバチの訪花がきっかけで花が開くこともある.

性格と生活サイクル
基本的に単独行動.
親子以外の関わりはあまり持たない.
寿命は約1年で,秋に生まれた若虫はそのまま巣で冬眠.

防御行動
外敵や寄生虫(ヒラズゲンセイ)が来た際,
巣の入口を自分の体(お尻)で塞いで防衛する.

スズメバチの事を「クマンバチ」や「クマバチ」と呼ばれたりするが,
クマバチはミツバチの仲間.
この危険なハチってイメージを定着させたのは,
アニメ「みつばちマーヤの冒険」「昆虫物語 みなしごハッチ」と言われる.
「マーヤの冒険」では,蜜蜂の国を攻撃するクマンバチの絵がクマバチだったり,
「みなしごハッチ」では,略奪を尽くす集団がクマバチだったり.
裏付けのない情報で誤った発信をするのは,
今も昔も変わらないという事なのかもしれない.

実際クマバチは,食性が花の蜜で,特に春季は藤の花の蜜が大好物.
コスモス花がある所では,ひたすら花を求めて飛び回り,
人間にはほとんど関心を持たない.指でつついても無視されるくらい.
オスには針が無いため刺すことはなく,手乗りクマバチが可能.
メスは毒針を持つので刺すが,重症化はしない.
※ただしアナフィラキシーショックは別

1934年,フランスの昆虫学者の「ハナバチはなぜ飛べるのか」という疑問に,
長年結論が出ず,当時は学術上,航空力学上,クマバチは飛べないと言われていた.
「クマバチは物理的に飛べる体型じゃないが頑張っているから飛べる」
「クマバチは飛べると信じているから飛べる」
「自分が飛べないことを知らないから、飛べる」
(この言葉が出来た当時の航空力学は,まだまだ未完全.)

普通に飛んでいるクマバチが,なぜ学術上は飛べないとされているのか.
それは,体に対して羽があまりにも小さいからである.
多くのハチが体全体を覆うほどの大きさの羽をもつのに対し,
クマバチの羽は尻の半分程度のところまでしかない.
そのため理論上では,羽が小さすぎるクマバチが,
自分の体を浮かせて空を飛ぶなんて,
当時の航空力学上では到底無理とされていた.

現在は,レイノルズ数(
空気の粘度)によって証明さている.
簡単にいうと空気の粘りや慣性力といった空気抵抗のこと.
流体力学が発展し,クマバチやマルハナバチが空気の粘性をうまく利用して,
飛行を可能にすることが物理的に証明されるのは,ごく最近の話だったりする.

「不可能を可能にする」
その姿が,一見不可能なことを成し遂げる象徴として捉えられ,
「信じる力」や「気合」によって飛び越える,根性論的な説明が広まったりした.
「信じる力」で飛ぶという浪漫の塊だったのに,科学とは実に,実に残酷なものだ.

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